イノシシと歯について

 イノシシは古くからの人間と交流のある動物です。中国ではイノシシを家畜化して6000年前からブタとして飼ってきました。日本でも弥生時代にはブタが飼われていたようです。中国では猪といえばブタのことす。したがって亥年はブタの年です。西遊記に登場する猪八戒はブタですよね。(ちなみにイノシシのことは野猪です。)
動物の歯はその動物がどんな食生活をしているかによってその形が変わってきます。イノシシは人間より12本多い44本の歯を持っています。
 イノシシもヒトと同じように雑食性ですが、ヒトのように調理したものを食べるわけではありません。木や草の葉や根、ネズミ・昆虫などの小動物を食べます。木の根や落ち葉の下の昆虫を食べるためには地面を掘り起こさなければなりません。そのため下の顎の前歯はシャベルのような形をしています。犬歯は上下とも鋭いはさみのような形をしています。イノシシ以外の敵に対する武器になります。小臼歯は肉を切るのに適した形をしていて、大臼歯はかみ砕く力が大きくなるような形態をしています。
イノシシの歯式
3・1・4・3
3・1・4・3
または I(3)・C・P(4)・M(3)
I(3)・C・P(4)・M(3)
獨協医科大学解剖学教室頭蓋骨データベースより
 左の写真は護王神社の狛猪です。
 日本でも宮中では亥の子祭りが行われ、亥の子餅という小豆と餅を使ってイノシシを現した嘉祥菓子が食されていました。イノシシが多産であることから子孫繁栄を願ってのことなのかもしれません。茶の湯でも亥の子餅は使われます。旧暦の10月、現在の11月に夏の風炉から冬の炉にかけかえる「炉開き」が行われますが、このときのお菓子が亥の子餅です。
 イノシシは前歯で土を掘り起こし食物を捕らえ、小臼歯で切り裂き、強力な大臼歯でかみ砕き、消化吸収力の大きな胃腸に送ります。人間はイノシシほどの丈夫な胃腸を持っていませんから、食べ物をよく噛んで、胃腸が栄養を消化吸収しやすくする必要があります。そのためには機能する歯と噛みあわせを守るための歯科医院での口腔ケアーがかかせません。
 イノシシは猪突猛進という言葉があるように、あまり考えずに突き進みますが、人間は生きていくために栄養バランスを考え、口の中で食物と唾液をよく混ぜ合わせ消化酵素や抗菌物質を十分働かせ、口中調味し、胃で吸収しやすい形に変えてやる必要があります。食べるということはただ栄養素をを体の中にいれればいいというわけではありません。食べ物が体のもととなり、成長発育するには健全に咀嚼できる口腔をはじめとする消化器官と大脳の中の食中枢の正常な働きが必須です。食の環境を整えて「口福」な食事を楽しみましょう。


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